転職したいと思ってたけど、本当は疲れてただけだった——Eさんの話
毎日21時退社に休日出勤。「営業向いてないのかも」と思い始めたEさんが、1週間の休みをきっかけに気づいたコンディション・ストッパーの正体を語る。
マイ
今日は、キャリアの話をするようで、実はちょっと違う話をする。
「営業向いてないかも」「転職した方がいいかも」。そう思ったことがある人は多いと思う。私もある。でもその感覚が、キャリアの問題じゃなくて体の問題だったとしたら?
Eさんの話を聞いたとき、正直ドキッとした。自分にも当てはまるかも、って。
Eさんのプロフィール
Eさん・29歳。不動産会社で個人向けの営業をしてる。主に賃貸と売買の仲介。
入社5年目。成績は中の上で、お客さんからの評判もいい。上司からは「安定感がある」と言われてた。
でも本人は、毎日「辞めたい」と思いながら出社してた。
毎日21時、土日も内見
不動産営業の忙しさは、外から想像する以上。
Eさんの平日はこんな感じ。朝9時出社、午前中は物件確認と資料準備。午後から内見2〜3件。18時に事務所に戻って契約書類の作成。帰りは毎日21時前後。繁忙期は22時を超えることも。
土日はお客さんの都合に合わせた内見対応。完全に休める週末は月に1回あるかないか。
「入社1〜2年目は、忙しいのが当たり前だと思ってました。先輩もみんなそうだったし。でも5年目になっても同じ生活で、体が追いついてないのに気づいてなかったんです」
睡眠時間は平均5時間。慢性的に疲れてたけど、「営業はこういうもん」って思い込んでた。
「営業向いてない」が口癖になった
4年目の後半あたりから、Eさんの中で変化が起きた。
お客さんの前では笑顔を作れる。でも事務所に戻ると何もする気が起きない。前は楽しかったはずの物件リサーチが、ただの作業に感じる。休日の友人との約束も、直前でキャンセルすることが増えた。
「このあたりから、『営業向いてないのかも』って本気で思い始めました。毎日がしんどい。でも何がしんどいのかわからない。仕事内容が嫌なわけじゃない。お客さんも好きだし、契約が決まれば嬉しい。でも全体的にグレーなんです。色がない感じ」
Eさんは転職サイトに登録した。事務職、企画職、人事——営業以外の仕事を眺めてた。「違う仕事をすれば、このしんどさから抜け出せるかも」と思ってた。
たまたまの1週間が教えてくれたこと
転職活動を本格的に始めようとしてた矢先、Eさんは体調を崩した。
高熱と胃腸炎。医師から1週間の自宅療養を指示された。
最初の3日間はひたすら寝てた。4日目、熱が下がって少し動けるようになった。5日目、久しぶりに8時間以上眠って目が覚めたとき、不思議な感覚があった。
「頭がクリアだったんです。ここ数年で一番、頭がスッキリしてました。その日の夕方、なぜか仕事のアイデアが浮かんできたんです。あのお客さんにはこういう提案ができるかもしれない、って。しんどかったはずの仕事のことを、楽しく考えてる自分がいた」
6日目、7日目と休み続けるうちに、Eさんはあることに気づいた。
自分は営業が嫌いだったんじゃない。疲れてたんだ。
体調を「経営」する
復帰後、Eさんは働き方を変えた。
まず、睡眠時間を6時間以上確保することを最優先にした。そのために21時以降の残業を原則やめた。終わらない仕事は翌朝に回す。上司には「パフォーマンスを維持するために必要です」と説明した。
次に、週1日の完全オフを死守した。土曜か日曜のどちらかは、絶対に仕事の予定を入れない。携帯の通知もオフにする。
「最初は『サボってる』って思われるんじゃないかと不安でした。でも実際にやってみると、稼働時間が減った分、集中力が上がって、成約率は逆に上がりました。疲れた状態で8時間働くより、元気な状態で6時間の方が成果出るんです」
3ヶ月後、Eさんの転職サイトのアプリはスマホから消えてた。
キャリアの悩みと体の悲鳴は似ている
Eさんの経験は、大事なことを教えてくれる。
「キャリアに悩んでる」と感じてるとき、その一部は体調の問題かもしれない。
慢性的な疲労は、思考をネガティブに偏らせる。気の持ちようの問題じゃなくて、脳の機能の問題。睡眠不足だと扁桃体——感情を司る脳の部位——の反応が過剰になって、前頭前野——理性的判断を司る部位——の機能が落ちる。つまり疲れた状態だと物事を悲観的に見やすくなる。
「営業向いてない」「転職したい」「何やってもつまらない」——こうした感覚が、睡眠不足や慢性疲労から来てる可能性がある。キャリアの問題だと思い込んで転職しても、次の職場で同じ生活を続けたら同じ感覚に陥る。
まず体を整える、それからキャリアを考える
Eさんは今、こう言ってる。
「キャリアの悩みが本物かどうかは、体調が良い状態で考えないとわかりません。疲れてるときの判断は、ほぼ全部ネガティブに歪んでます。私は1週間休んで初めてそれに気づきました」
もし今、「営業向いてない」「転職したい」と思ってるなら。一度だけ試してほしいことがある。
今週末、1日だけ何もしない日を作ってほしい。
仕事の連絡を見ない。予定を入れない。好きなだけ寝る。散歩する。ぼんやりする。
その日の夜、もう一度「営業向いてない」と思うかどうか。思うなら、それはキャリアの問題だ。真剣に向き合うべき。でもそう思わないなら——Eさんと同じで、それは体の悲鳴だったのかもしれない。
キャリアを考えるのは大事。でもその前に体を整えるのが先。土台がぐらついた状態で大きな判断はしない方がいい。
Eさんが最後に言った言葉が、ずっと私の中に残ってる。
「転職しなくてよかった、とは言いません。転職が正解の人もたくさんいる。でも私の場合は、疲れた状態で人生の大きな判断をするところだった。それだけは避けられてよかったです」
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参考文献
- Walker, M. (2017). Why We Sleep: Unlocking the Power of Sleep and Dreams. Scribner.(睡眠不足が判断力・感情制御に与える影響の包括的研究)
- 厚生労働省「令和4年 労働安全衛生調査(実態調査)」(業種別の労働時間・ストレス状況の実態データ)
よくある質問
- Q体調ストッパーとは何ですか?
- 慢性疲労・睡眠不足・過度なストレスなど、体のコンディションの悪さがパフォーマンスやキャリア判断に悪影響を与えてる状態。本人はキャリアの問題だと思ってるけど、実は体の問題というケース。
- Qどのくらい疲れていたら危険サインですか?
- 次のうち3つ以上が2週間以上続いていたら要注意。朝起きても疲れが取れない、休日も仕事が頭から離れない、食欲の変化、些細なことでイライラ、集中力が続かない、趣味への興味が薄れている。まず睡眠確保から。
- Q営業職で十分な休息を取るのは現実的に可能ですか?
- 簡単じゃないけど不可能でもない。ポイントは週1日の完全オフ。携帯通知オフにするだけで回復度が変わる。体調崩して長期離脱するより日常的に休む方が組織にとっても合理的。
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文系・非IT出身でCSからISに転職。迷いながら動いて気づいたことを、等身大で伝える。