"まぐれだった"がやめられなかった——Cさんと頭の中の声
社内表彰されても「本当は実力じゃない」と感じ続けたCさんの体験談。インポスター現象に気づき、思考のクセを手放すまでのマインド・ストッパー克服記。
マイ
私がこの話を取り上げたいと思ったのは、自分にも思い当たるところがあるから。
成果が出たとき、素直に「自分の力だ」と思えない。「たまたまだ」「お客さんが良かっただけ」「上司のフォローがあったから」。そうやって成功を自分から遠ざけてしまう。
頭の中に、自分を否定する声がある。 でもそれは性格じゃない。思考の「クセ」。そしてクセは、気づいた瞬間から力を失い始める。
今日は、この「頭の中の声」に長いこと支配されてたCさんの話をする。
Cさんのプロフィール
Cさん・28歳。人材紹介会社の営業。
入社2年目で社内の年間MVPを受賞。同期の中で一番早く昇格候補に名前が挙がった。外から見たら文句なしのハイパフォーマー。
でもCさんの中には、ずっと別の物語が流れてた。
表彰されたのに、嬉しくなかった
社内表彰の日、Cさんは壇上で笑顔を見せた。でも内心は違った。
「正直、怖かったんです。『この成果は本当に自分の実力なのか』って。上司が毎回フォローしてくれたし、担当エリアの求人が多かっただけかもしれない。たまたま良いお客さんに恵まれただけかもしれない」
周囲が「すごいね」って言ってくれるほど、居心地が悪くなった。期待が上がれば上がるほど、「次にボロが出る」っていう恐怖が大きくなった。
Cさんはこのとき、自分の感情に名前がつくことを知らなかった。
3年目の壁——「やっぱり自分じゃなかった」
3年目、Cさんは新規開拓中心のチームに異動した。
既存顧客フォロー中心の営業とは違って、ゼロから関係を作る仕事。最初の3ヶ月、成果がほぼ出なかった。
普通なら「新しい環境だから当然」って思えるかもしれない。でもCさんの頭の中では、こんな声が鳴ってた。
「ほら、やっぱり実力じゃなかったでしょ。前のチームで成果が出てたのは環境のおかげ。本当の自分はこの程度」
自信がなくなると行動量も落ちる。電話かける前に「どうせ断られる」って思っちゃう。商談中も自分の提案に自信が持てない。お客さんにはその空気が伝わる。さらに成果が出ない。悪循環だった。
友人の一言——「それ、インポスター現象だよ」
ある日、大学時代の友人と食事した。その友人はカウンセラーをしてた。
Cさんが「自分は運が良かっただけで、実力はない」と話したとき、友人はこう言った。
「Cちゃん、それインポスター現象って言うんだよ」
インポスター現象——客観的な成果を出してるにもかかわらず、「自分は実力で成功したんじゃない」「いつか化けの皮が剥がれる」と感じ続ける心理パターン。1978年に心理学者のClanceとImesが名づけた。
「名前がついた瞬間に、少し楽になったんです。私がおかしいわけじゃない、よくあるパターンなんだって。しかも能力が高い人ほどなりやすいって聞いて、ちょっと笑っちゃいました」
友人はこうも言った。「自分の成功を『外的要因のおかげ』って解釈するクセがあるでしょ。逆に失敗は全部『自分のせい』にしてない?」
Cさんはハッとした。まさにそうだった。成功は周りのおかげ。失敗は自分の責任。この非対称なフィルターが、ずっと自分を追い詰めてた。
「記録する」という対抗策
友人のアドバイスで、Cさんは一つの習慣を始めた。
成功体験を、事実ベースで記録すること。
スマホのメモアプリに、日付・何が起きたか・自分が何をしたかを書く。感情じゃなく事実だけ。
たとえば——
- 「4/5:A社との商談。事前にIR情報を読んで課題仮説を3つ用意した→先方が『そこまで調べてくれたんですね』と反応→次回提案の約束を取り付けた」
「まぐれだった」と思ったときにこのメモを読み返す。そこには自分の行動と工夫が、事実として書いてある。
「最初は全然信じられませんでした。書いてあることは事実なのに、頭の中の声が『でもそれは誰でもできることだ』って否定してくる。でも3ヶ月くらい続けると、少しずつ変わってきました。事実の蓄積って、思い込みより強いんです」
思考のクセは「敵」じゃない
Cさんが半年後に気づいたのは、インポスター的な思考を「完全になくす」必要はないってこと。
「今でも、大きな成果が出たときに『本当に自分の力かな』って思うことはあります。でも前みたいにその声に支配されなくなりました。『あ、またこのパターンだ』って気づける。気づけたらメモを見返す。それだけで十分なんです」
思考のクセは長い時間かけて形成されたもの。一朝一夕には変わらない。でも「認識する」だけで力を弱められる。認知行動療法の世界ではこれを「脱フュージョン」と呼ぶ。思考と自分を切り離す技術だ。
自分の中の声に「名前をつけること」。そして「事実で対抗すること」。この2つだけで、Cさんの営業人生は大きく変わった。
あなたの中にも「声」はないだろうか
最後に、これを読んでるあなたに聞きたい。
成果が出たとき、素直に「自分がやった」って思えてるだろうか。「たまたま」「お客さんが良かった」「チームのおかげ」——そう感じること自体は悪くない。謙虚さは大事。
でもそれが「自分には実力がない」って結論に毎回つながってるなら。それは謙虚さじゃなくて、思考のクセだ。
クセは変えられる。Cさんがそうだったように。
まずは次に何かうまくいったとき、スマホにメモを一つ残してみてほしい。自分が何をしたか。事実だけを。
頭の中の声より、書かれた事実の方が、きっと信用できるから。
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参考文献
- Clance, P.R. & Imes, S.A. (1978). “The imposter phenomenon in high achieving women: Dynamics and therapeutic intervention.” Psychotherapy: Theory, Research & Practice, 15(3), 241-247.(インポスター現象の原著論文)
- Bravata, D.M., Watts, S.A., Keefer, A.L., et al. (2020). “Prevalence, Predictors, and Treatment of Impostor Syndrome: a Systematic Review.” Journal of General Internal Medicine, 35(4), 1252-1275.
よくある質問
- Qインポスター現象(症候群)とは何ですか?
- 十分な成果を出してるのに『自分は実力で成功してない』『いつかバレる』と感じ続ける心理パターン。1978年にClanceとImesが提唱。病気じゃなくパターンなので改善できる。能力が高い人ほどなりやすい。
- Q思考ストッパーを自分で解消する方法はありますか?
- 3つ。成功体験を事実ベースで記録する、信頼できる人からフィードバックをもらう、『まぐれだった』と思ったときに『根拠は?』と自分に問い返す。繰り返すうちにクセが弱まる。
- Q営業職はインポスター現象になりやすいのですか?
- 営業は成果が数字で見える分、外的要因(景気・商材・タイミング)のおかげだと思いやすい。結果のばらつきが大きい仕事なので、良い結果でも『次は失敗するかも』と不安を感じやすい構造がある。
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29歳インサイドセールス
文系・非IT出身でCSからISに転職。迷いながら動いて気づいたことを、等身大で伝える。