3社目でやっと"合う場所"を見つけた——Bさんの環境ストッパー
大手メーカー、SaaS、スタートアップ。3つの環境を経験したBさんが気づいた「能力は変わってない。変わったのは場所だけ」という事実。
ジン
長くやってきたから、言えることがある。
営業の世界で「どこでも通用する力をつけろ」ってよく言われる。俺もそう思う。でも「どこでも同じように力を発揮できる」かっていうと、それは違う。環境によって、同じ人間のパフォーマンスは驚くほど変わる。
今日は、3社を経験してやっと自分に合う場所を見つけたBさんの話をする。
Bさんのプロフィール
Bさん・33歳。大手メーカーからスタートして、SaaS企業を経て、今は20人規模のスタートアップで営業してる。
3社とも「法人営業」という職種は同じ。でもBさん自身の手応えはまったく違った。
1社目——大手メーカー:提案の自由がなかった
新卒で入った大手メーカーは、商材の品質には自信があった。業界シェアも高くて、ブランド力で商談が進む場面も多い。
でもBさんが感じたのは「型にはめられてる感覚」。
提案書のフォーマットは決まってる。価格交渉の裁量もない。お客さんごとにカスタマイズした提案をしたくても「うちのやり方はこうだから」と却下される。
「お客さんの課題が見えてるのに、うちの商材の範囲でしか提案できない。もどかしかったです。営業って、もっとクリエイティブな仕事だと思ってたので」
3年目で数字は中の上。悪くはない。でも「この環境で5年後の自分が想像できない」と感じて転職を決めた。
2社目——SaaS企業:自由はあったけど孤独だった
2社目は急成長中のSaaS企業。提案の自由度は高くて、商材も面白い。前職のもどかしさは解消された。
でも別の問題が出てきた。
チームの文化が「個人プレー」だった。各自が自分の数字を追って、成功事例や失敗の共有はほぼなし。週次ミーティングは数字確認だけで、「どうやったか」のプロセスには誰も触れない。
「自由な分、全部自分で考えないといけない。それ自体はいいんですけど、フィードバックがゼロなんです。自分のやり方が正しいかどうか、誰も教えてくれない。成果が出ても『たまたまかも』って不安になりました」
1年半で成績が伸び悩んだ。上司に相談しても「数字を見ろ」としか言われない。Bさんは「自分にはSaaS営業の適性がないのかも」と思い始めた。
3社目——スタートアップ:すべてが噛み合った
3社目の転職は、正直なところ消去法だった。大手もSaaSも合わなかった。もう営業自体が向いてないかもしれないと半ば思いながら、知人の紹介で20人規模のスタートアップに入った。
ここで、Bさんの営業人生は一変した。
商材はBtoB向けのDXツール。Bさん自身がユーザーとして「これは便利だ」と心から思える製品だった。
チームは営業3人。毎日のように商談の振り返りをして、「あの質問の仕方はよかった」「ここはこう切り返した方がいい」と互いにフィードバックし合った。CEOとの距離も近くて、プロダクトの改善要望を直接伝えられた。
「入社3ヶ月目に、前職の2年分くらいの売上を作りました。自分でもびっくりしたんですが、別に急に能力が上がったわけじゃないんです。環境が変わっただけで」
「能力は変わってない。変わったのは場所だけ」
Bさんがこの言葉に辿り着いたのは、3社目で半年経った頃だった。
1社目で「提案の自由がない」と感じたのは、Bさんがお客さんごとのカスタマイズを大事にするタイプだったから。それは強み。でもその強みが活きない環境だった。
2社目で「フィードバックがない」と感じたのは、Bさんが他者からの反応を通じて成長するタイプだったから。それも強み。でもその強みが活きない環境だった。
3社目は、提案の自由度もフィードバック文化もあった。Bさんの強みがそのまま活きる環境だった。
これはBさんが「3社目で成長した」んじゃない。1社目や2社目で環境のミスマッチによって力が抑えられてただけだ。
環境を見極める3つの視点
Bさんの経験から、営業の環境を見極めるポイントは3つに集約される。
1. 裁量の範囲
提案内容、価格交渉、顧客対応——どこまで自分の判断で動けるか。型に沿って動くのが得意な人もいれば、自分で考えて動きたい人もいる。自分のタイプと環境の裁量範囲が合ってるかが重要。
2. フィードバックの密度
成果だけを見る文化か、プロセスも見る文化か。一人で黙々と積み上げるのが得意な人には個人プレー文化が合うし、チームで磨き合いたい人にはフィードバックが密な文化が合う。
3. 商材への共感
自分が売ってるものを心から「良いものだ」と思えるか。軽視されがちだけど、商材への共感度は営業の説得力に直結する。嘘じゃないにしても、「本当に良い」と思ってない商品を売り続けるのは、静かに消耗する。
「合わない場所で耐える」は美談じゃない
日本の営業文化には「石の上にも三年」的な考え方が根強い。すぐ環境のせいにして逃げ続けるのは問題だけど、合わない環境で努力量だけを増やし続けるのが正解とも限らない。
Bさんは1社目で3年、2社目で2年を過ごした。「もっと早く動いてればよかった」とは言わなかった。「それぞれの経験があったから、3社目で『ここだ』とわかった」と。
ただ、こうも言ってた。
「2社目で成果が出なかったとき、『自分には営業の才能がない』と本気で思ってました。でも今振り返ると、あの環境では誰でもそう感じたと思います。環境が人の自信を削ることもあるんです」
もし今、努力してるのに成果が出ないと感じてるなら。能力を疑う前に、環境との相性を確認してほしい。
自分が変わる必要はないかもしれない。場所を変えるだけで、同じ自分がまったく違う成果を出せることがある。
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参考文献
- Kristof-Brown, A.L., Zimmerman, R.D., & Johnson, E.C. (2005). “Consequences of individuals’ fit at work: a meta-analysis of person-job, person-organization, person-group, and person-supervisor fit.” Personnel Psychology, 58(2), 281-342.(Person-Environment Fitの包括的メタ分析)
- リクルートワークス研究所「Works Report 2023 ジョブ型人事制度と個人のキャリア」
よくある質問
- Q環境ストッパーとは何ですか?
- 自分の能力やスキルの問題じゃなく、職場の文化・体制・評価制度・商材などの環境要因で力が発揮できない状態。努力しても成果が出ないとき、環境との相性を疑ってみる価値がある。
- Q自分に合う環境をどうやって見極めればいいですか?
- 3つの観点。裁量の範囲(提案の自由度)、フィードバック文化(プロセスを見てくれるか)、商材への共感(心から良いと思えるか)。面接時にこれらを具体的に質問するのがおすすめ。
- Q何社も経験しないと合う環境はわからないものですか?
- 必ずしもそうじゃない。1社しか知らないと判断しにくいのは事実だけど、勉強会・他社営業との交流・副業で比較対象を持つ方法もある。大事なのは比較できること。
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41歳フィールドセールス VP
20年以上の現場経験。エンタープライズ大型商談の修羅場をくぐってきたから言える、長期視点のキャリア論。